メテオラ旅行記7 遅れてきた神託「汝自身を知れ」

ルサヌ修道院の前まで上り、雨の中、カストラキへの道を帰る我々。

まだ時間はお昼を過ぎたくらいだったが、今日のメテオラ観光はこれにて終了である。天気も悪いし、まだ訪問していない修道院2つは、今日は閉まっている。

メテオラは、修道院しかない聖地で、ホテルもレストランもない。食事をするには、ふもとの村カストラキか、隣のカランバカの町まで行かなければならない。もしかしたら夏は、修道院前に出店くらいは出るのかもしれないが。

我々はカストラキに宿泊しているので、そのままカストラキのレストランで食事をして、ホテルに帰ることにした。

ソックスが濡れていて気持ち悪かったので、先にホテルに帰りたい気もしたのだが、ソックスを履き替えたところで、また外出したら、どうせまた濡れてしまうだろう。お腹も空いていたし、そのままレストランに入った(今に思えば、先にホテルに帰っておけばよかった…)。

オフシーズンの3月、小さなカストラキの村で開いているレストランはほとんどない。雨の中、探し回るのも大変なので、昨夜入った「Taverna Gardenia(タヴェルナ・ガルデニア)」が美味しかったので、また入店した。姉いわく「たぶん今夜も明日の昼もココで食べることになると思うよ」。

メテオラのレストラン

「Taverna Gardenia(タヴェルナ・ガルデニア)」には先客がいた。頭かくして尻尾かくさずニャン。メテオラだけでなくカストラキも猫ちゃんだらけニャのだ。

今回のランチは、昨夜とは違うメニューを選んでオーダーした。

メテオラのレストラン

こちらは、ギリシャではよく見える「ワイルドグリーン」と呼ばれる葉物野菜の炒め物。レモンをたっぷりかけて食べる。寒いときには、身体が温まるホットサラダだ。レモンをかけまくって、ビタミンCを取るぞ!

メテオラのレストラン

こちらはレストランのウェイターさんがすすめてくれた、スタッフドベジタブル。野菜の中に、ひき肉などが詰まっている料理である。オリーブオイルで焼いた香りが漂っていて、非常に美味しかった。このお皿もビタミンたっぷり。

メテオラのレストラン

そして、ムサカ。ギリシャ料理といえばギリシャ風グラタンのムサカ。お店によって味が違うのが特徴だが、ここのムサカは、ホワイトソースがまろやかで優しい味わいであった。ほくほくで身体が温まる。

…ビタミンとか、身体が温まるとかばかり言っているが、とどのつまり、このレストランで食事しているうちに、私はどんどん冷えはじめてきたのである。いくら身体を温まる食事をとっても、ビタミンCを摂りまくっても、なにせソックスが濡れているわけだから、足元からの冷えが止まらないわけである。

空前の健康ブームの中に、「温活」とか「冷え取り」とかいうものがあるが、その基本は「頭寒足熱」で、足元を温めなければならないらしい。私は完全に「足寒」状態になっていて、冷えまっしぐらというわけだ。

とりあえず、早めに食事を済ませて、ホテルに帰ることにした。少なくとも、少し休んだ方がよさそうだ。

カストラキの猫ちゃんたち

カストラキのホテル前にも、たくさんのニャンが集まっていた。みんな顔が似ていて、兄弟かと思ったのだが、1匹だけ(右端の子)首輪をしていた。野良ニャンも家ニャンも分け隔てなく仲が良いカストラキの猫社会。

あー、そういえば、ホテルのお風呂(バスタブつきのシャワー)が壊れているんだった。バスタブに入って温まろうと思ったけど、シャワーが出ないから、バスタブのない部屋に移動するんだった。何か、こういう細かいところが、今回の風邪はついてなかった。

ホテルに帰ると、我々の荷物は全て、新しいお部屋に運び込まれていた。

カストラキのホテル

カストラキのホテル

昨日までのお部屋と、あまりインテリアには変わりはない。

カストラキのホテル

でもバスタブがないよーっ!シャワーボックスだよーっ!風邪引いてるからバスタブで温まりたいよーっ!だけど、壊れているバスタブだったらかえって身体が冷えるからいらないんだよーっ!

ちゅうわけで。私はさっさとパジャマに着替えた。もうダメだ。こりゃ、本格的に風邪引いた。明日の夜は、イタリアに向けて夜行フェリーに乗るから、それまでには、せめて風邪を快方へ向かわせたい(明日までに治すのは無理そうだ)。

風邪薬を飲もうとスーツケースから救急ポーチを取り出すと、予想以上に風邪薬が少ない。旅程の初めのうちは姉も飲んでいたし、私もここ数日は連日飲んでいた。しかも、旅行前の姉と私の連携がうまくいっていなくて、もともと持ってきた数が、想定より少なかったようだ。

風邪薬が残り少ないとなると、明日のメテオラ観光も、体調と天気によるけど、少し控えた方がいいかもしれないなあ…。とりもあえず、もう今日は暖かくして寝るしかない。半日ゆっくり休めば、風邪は「真っ盛り」から「ひき終わり方向」には向かってくれるかもしれない。

「もう寝る宣言」をした私を部屋に残し、姉はカストラキ散歩に出かけていった。夜ご飯をどうするかは、連絡をくれるというので、携帯電話を枕元に置いて寝転がった。本当は私もカストラキを散策したかった。メテオラの奇岩が背後にそびえるカストラキの町は、想像していたよりも雰囲気がよかったのだ。

カストラキの町

しかし、今の私は、こうやってホテルの窓からメテオラの奇岩をぼんやりと眺めることしかできない。イヤ、そんなことしてないで、さっさと寝なさい。

数時間寝たところで、姉から電話が来て起きた。「夜ご飯どうする?外に出れそう?」。

よく考えると、何だか胃腸も疲れていた。ミコノス島でも自炊しなかったし、カストラキも外食続きだ。風邪も真っ盛りなせいか、もう、あまり味の濃いものは食べたくない。

そこで、食欲がない場合は、遠慮なく残せるように、昨夜も今日の昼も入ったレストラン「Taverna Gardenia(タヴェルナ・ガルデニア)」で、テイクアウトものを買ってきてもらうことにした。テイクアウトができなければ出かけるしかないなー、しんどいなーと思っていたが、姉からまた連絡がきて、テイクアウトはできるけど、多少時間がかかるよ、とのことだった。

テイクアウトものを作ってくれるのに、30分近くかかったらしい。それを待っている間に、カストラキは夕暮れ模様だったのが、一気に暗くなってしまった。そこに姉が息せき切って帰ってきた。

「どうしたの?何かあったの!?」と聞くと、「急に暗くなってさー、特に暗くてちょっと恐い坂道があったから、走って上ったんだよ。そしたら何だか息苦しくなった」と言う。

しかも「ちょっと横になるよ」という姉。えっ?全力疾走して息切れしたの?あの「動悸・息切れ」ってヤツ?

姉がしんどそうなので、姉のタブレットで「全力疾走・動悸・息切れ」などのキーワードで、対策をググる私。カストラキのようなのんびりした村で、日本人旅行者は何やってるのか。

とりあえず、しばらく休んだら、姉は少しは落ち着いたので、夜ご飯を食べることにした。

カストラキのレストラン

これが姉が買ってきてくれたセット。こういうのが用意されているあたり、結構テイクアウトもやっているお店なのかもしれない。

カストラキのレストラン

スブラキ(ギリシャ風の焼き肉)と、付け合わせのポテト。ギリシャのフライドポテトは、オリーブオイルで揚げているのか、あまり脂っこくなく、さわやかに食べられるものが多い。

グリーク・サラダ

グリーク・サラダ。テイクアウトで購入するのは初めてだ。野菜もたくさん食べて、ビタミンを摂らねば。

夜ご飯を食べながら姉と話した。姉は豪傑肌の人間だが、軽い不整脈を指摘されたことがあり、実は心臓そのものは強くはない。なのに、風邪で私が部屋に残って、夜の一人歩きをしなければならなかったため、坂道猛ダッシュをしてしまった。

私は、今までのヨーロッパ旅行で何度か風邪をひいたことがあるくせに、今回、風邪薬の準備が足りず、しかもミコノス島では、船に往復で乗った後、飛行機にも乗るという強行日程を組んでしまった。あげく、疲れが出て体調を崩し、結果的に姉に負担をかけてしまった。

今回の旅程は、平均的な旅行者から見て強行日程ということはないけれど、我々にとっては、自分たちの体力を超えた強行日程だったのだ。おとといデルフィに行ったばかりだが、アポロンの神託は遅れて降りてきた。「汝自身を知れ」。うん、これからは、自分たちの体力を謙虚に考えて、自分たちがこなせる旅程を作らなければならないね。

いやー、今まで、旅というものが「自分探し」だなんて思ったことなかったけど、こうやって、汝自身を知っていくものなのだなあ。そういうわけで、デルフィでは浮かれた耳に聞こえて来なかったが、デルフィで我々に下った神託は「汝自身を知れ」だったことが判明したのである。