3/12ピエンツァ旅行記2 アグリツーリズモ天国
本日は、午前中にモンテプルチャーノ、昼からピエンツァ周辺のオルチャ渓谷と、結構歩き回った。
オルチャ渓谷からピエンツァ市街地へと戻り、ドゥオーモの正面にあるバールで、スプレムータ(手搾り果実ジュース)を飲んで一休みした。観光の中心である、ドゥオーモの近くにあるお店は、どこの町でも割高で美味しくないことが多いのだが、ここピエンツァのドゥオーモ正面のお店は、スプレムータが1杯2.5ユーロと安く、しかも美味しかった。
我々が宿泊しているのは、ピエンツァの旧市街の少し外になり、コープ(スーパー)以外のお店はあまりないので、ここ旧市街で、夜ごはんのためのチーズを買って帰ることにした。何といっても、ピエンツァは、ペコリーノ・チーズで有名なのだ。
入ったお店は「LA TAVERNA DEL PECORINO」。メインストリートから、ちょっと左側に入ったVia Condottiという通りにあるお店で、確かCREA Traveller (クレア・トラベラー) のトスカーナ特集号にも紹介されていたお店だ。
このお店。
メインストリートであるロッセッリーノ通りからは、このかわいい羊くんが目印になる。ペコリーノ・チーズのペコリーノとはイタリア語で羊を意味する「ペーコラ」から来ている(タクシーの運転手さんが言っていたことの受け売り)。それにしてもこの羊くん、かわいらしいピエンツァの街並みにとてもマッチしている。
ピエンツァの旧市街で売られているチーズは、ほとんどがお土産用のチーズだが、このお店では、すぐ食べる用のチーズも売っていて、少量の切り売りもしてくれた。
お店のおじさんが親切で、味見するときに、バルサミコ酢をつけてくれたのだが、そのバルサミコ酢との相性が最高っ!いやー、私は、もともとあんまりチーズは好きじゃないんだけれど、やっぱり本場のチーズは美味しいね。あんまり美味しかったので、バルサミコ酢も買いたいなー、でも瓶で買うには大きすぎるなーと思っていると、なんと1ユーロの、ちっちゃーなバルサミコ酢が売っていた。おじさん~、用意がいいじゃありませんこと~?というわけで、そのちっちゃなバルサミコ酢と、チーズを買って帰った。
さーて、チーズも買ったことだし、宿泊先のアグリに戻ろう。
今日はしゃかりきに動いたので、母はベッドに転がして休ませることにした。実は私も、アマルフィでの部屋の乾燥、ポジターノ、ポンペイでの雨にずぶ濡れなどが積もり積もったのか、くしゃみばっかりしていた。
だが、これがただの風邪なのか、もしかしたらついに花粉症デビューしてしまったのかがわからなかった。というのも、ここオルチャ渓谷は糸杉だらけで、スギ花粉が盛大に飛び回っているのである。そのため、花粉症の姉と母は、日本から花粉症の薬を持参してきていた。ああ、ただの風邪だといいなあ…。デビューはマジにいやだぜ(実際は風邪でした)。
糸杉だらけのオルチャ渓谷。
私も体調十分ではないし、母と同様に、今日はこのまま休もうかなーと思っていると、窓の外に、庭をこの子たちがほっつき歩いているのが見えた。
ア、アヒルー!
アヒルの何がそんなに嬉しいのか、私と姉は庭へと飛出し、写真を撮りながらアヒルを追いかけた。すると、そこに農作業姿の一人のおじいちゃんがやってきた。
「ちゃおー!君たち、宿泊している日本人だね?」
どうやら、このアグリツーリズモを経営している農家の大黒柱で、いつも2階にいるおばあちゃんのダンナさんで、いろいろ手続きをしてくれたラウラのお父さんのようだ。
我々がこのおじいちゃんとしゃべっていると、さっきのアヒル3羽が戻ってきて、明らかにおじいちゃん以外の我々に向かって、「キエーッ!キエーッ!」と、顔の面積よりも大きくくちばしを開けて、完全に怒りの形相で威嚇してきた。えっ?何でそんなに怒っているの?それにしても、おじいちゃんに対しては全然威嚇していないので、アヒルくんたちも、家の人と、部外者のアヤシイやつを見分けることができるのね。
おじいちゃんは、英語は全くしゃべれないらしく、私が少しだけイタリア語を話せるので、「会話ができるね、会話が!」と大喜びしていた。大喜びの流れで、「アヒル以外にもいろいろいるんだよ。こっちにおいで」と言って、庭で飼育している動物をたくさん見せてくれた。
「ここは臭いけどね。トイレじゃないからね、エッヘヘ」と、ギャグをかましながらおじいちゃんが案内してくれたのは、飼育小屋。おじいちゃんが入って行くと、ものスゴイ勢いで、子ブタたちが集まってきた。おじいちゃんがご飯を投げると、それに突進していく子ブタたち。おじいちゃんは、子ブタたちの頭から、ご飯を浴びせかけてるよ!子ブタたちのあまりの勢いに、ただただ圧倒される姉と私。ブタって、本当にブヒブヒ言うんだなあ!
ブヒブヒが響く中、姉が、「カメラの電池が!こんなところで完全に消えたっ!」と叫んでいるのが聞こえたため、私が携帯のカメラを無我夢中で押したのがこの写真。
子ブタたちの部屋のとなりには、もう少し落ち着いた感じのブタさんがいた。
このブタさん。「このブタと、子ブタたちは親子ですか?」と聞くと、「親子じゃなくて、兄弟だよ。親はもう食べた」とのお答え。へ、へえー…。そうだよな、ペットじゃなくて家畜なんだもんな。
この小屋には、ブタ以外にも、キジみたいな山鳥や、ニワトリなどもいた。ニワトリは、ほぼ放し飼いって感じで、庭を歩いたり、小屋に入ったり自由行動であった。ブタさん用のご飯置き場では猫がまるくなって寝ていたし、小さなケージの中にはウサギもいた。庭を猫が自由に駆け回っているのに、どうしてニワトリやアヒルもへっちゃらに歩き回ってるんだろう。猫がちょっかい出したりしないのかな?ちょっと不思議。
おじいちゃんは、ニワトリの小屋から卵を取り出して、「持って行きなよー」と手渡してくれた。もうひとつ、大きな卵を撮り出して、「こっちはアヒルの卵だけど、美味しくないんだ」と言っていた。へー。じゃあ、アヒルの卵は何に使うんだろ。こういうことをペラペラと聞けるくらい、イタリア語が堪能になりたいぜ!
おじいちゃんは、「今日の夕方6時半くらいから、カンティーナの見学をしないかい?」と言ってきた。カンティーナというのは、ワインなどを製造している工場のことだと思われる。アグリツーリズモに宿泊すると、こうやって農家の仕事を見学できることがあるのだ。私は体調がイマイチではあったのだが、アグリツーリズモ体験なんて、今度いつできるかわからないので、姉と相談して、見学させてもらうことにした。「じゃあ、6時半になったら、2階に来て、ドアをノックしてくれ」とおじいちゃんは言い、いったん我々は部屋に戻った。
カンティーナは、宿泊しているアグリから、少し離れた所にあると思っていたので、母はお酒も飲めないことだし、このまま休ませることにした。ちょっと今日は動き過ぎたものね。6時半まで、私も横になって休むことにした。元気なのは姉一人。これでも旅行中は体調管理に気を付けているつもりだし、疲れないようにゆったり日程にしているんだけどなあ。自分のひ弱さにちょっとへこむぜ…。
6時半になったので、母を置いて、2階へ行き、ドアをノックするとほころびそうな笑顔のおばあちゃんが出てきた。おばあちゃんは「どうぞ、どうぞ」と姉と私を部屋の中に入れ、リビングの椅子に座らせ、おばあちゃんも座った。そして、おばあちゃんとのトークが始まった。
「あなたはどうしてイタリア語を話せるのー?」「イタリアを旅行するのが好きなので、独学で勉強してるんです」「難しくない?」「そういえば、南イタリアでは方言のせいか、通じにくいことがありました」「そうでしょ?でも、ここピエンツァには方言らしいものはないのよ。今のイタリア標準語は、このあたりの地域(おそらくトスカーナ)がもとになってできているからね」「そうですね、あなたのイタリア語は聞き取りやすいです」「うちには息子もいるんだけどねー、今バカンスでいないのよー」「ラウラのお兄さんですか?」「そうそう」
………他愛もない世間話。国際コミュニケーションっていいね。でもさ、まったくもって、カンティーナへ出かける気配ナシ。おばあちゃんは、もしや我々がおじいちゃんと約束しているの知らないのかな?単に我々が世間話をしに2階に来たと思ってる!?
そこで「あのー、実は私たち、ダンナさんと、6時半からカンティーナを見せてもらう約束をしているんです。それで、2階に上がってくるように言われたんですが…」と切り出してみた。すると、案の定、おばあちゃんは知らなかったようで、「あらあら、ダンナに聞いてみるわね」と、電話でおじいちゃんと連絡を取ってくれた。おばあちゃん…やっぱり、我々がただ世間話をしに来たと思ってたんだね。ああ平和。
で、5分後くらいにおじいちゃんがやってきて、「よし行こう!」ということになった。室内にいた、犬のルナもついてきた。おじいちゃんいわく「ルナは何かもらえると思ってついてくるんだよ」とのこと。へー。我々が今からカンティーナに行くことを雰囲気で察してるってこと?めっさ頭いいじゃん。
カンティーナにはてっきり車か何かで行くのかと思いきや、カンティーナはこの建物の敷地内であった。何だー。こんなに近かったのか!母も連れて来ればよかったなあ。
こちらがカンティーナ。ワインの樽っ!樽がずらっと並んでいるよ!
こちらは、ピエンツァ名物ペコリーノ・チーズ。
ここはワインを作っているエリア。おじいちゃんがいろいろ説明してくれて、その場ではギリギリわかってたんだけど、忘れました!てへっ!古い40年もののワインと、10年もののワインとを味見させてもらった。ホラ、私は、普段お酒飲まないし、ワインの良し悪しはわからないんですけどね、とりあえず、お酒苦手な私でも、飲みやすくて美味しかった!おじいちゃんいわく、今年のワインの出来は良い、とのこと。
こちらの方はオリーブオイルを作っているエリア。こっちもいろいろ説明してもらったんですけどね。忘れたっ!とりあえず、オリーブオイルってことで!
サラミやハム類も作っているし、何でも作ってるんだなあ…!ここでいろいろ試食させてもらったものが、あまりに新鮮で美味しいので、コレは、何としてでも母を叩き起こして来ようと思い、おじいちゃんに、「あまりに貴重な経験なので、部屋で休んでいる母も呼んできます」と言って、母を呼びに行った。
母を連れてきたところで、ちょうどおじいちゃんの娘さんのラウラが仕事から帰ってきた。ラウラは少し英語が話せるので、姉のためにラウラが英語で通訳を始めた。それを姉が日本語に訳して母に伝えるという、二重通訳っ!
そして、ここからは素晴らしきかな試食大会。ワインはおいしいし、チーズはおいしいし、サラミ類もおいしいし!
オリーブオイルはこうやって、パンにつけて試食させてくれた。何といっても、このオリーブオイルが美味しかった!ラウラたちは、さらにこの上に塩をかけて食べていたけど、我々には塩は不要で、オリーブオイルの味だけでじゅうぶん美味しかったー!
おじいちゃんは、母にもワインを勧めてきたが、「母はアルコール飲めないんです」と言うと、「じゃあ、僕が代わりに飲んじゃおうかな…」と言って、ごくごく飲み、ちょっとほろ酔いの上機嫌になってきた。日本人の我々が、いちいち素直に「おー!」と感動するのが嬉しかったのかもしれない。
だが、そのちょっと酔っぱらい気味のおじいちゃんに、娘のラウラは手厳しかった。
テーブルにこぼれたオリーブオイルを拭いたティッシュを手に持ったままサラミを切ろうとすると、「ゴミは捨てなさい!」。我々にサラミを説明する時に、おじいちゃんが冗談で「これはブタの頭で作ってるんだよ~えへへ」と言うと、即座に「頭だけじゃないでしょ!!!」。さらにサラミを切っているおじいちゃんに、「もっと食べやすいように小さく切ってあげなさい!!!」。あんなにやさしいラウラなのに、娘が父親にキビシイのは、どこの国でも同じなのね。
カンティーナまでついてきた犬のルナは、時々サラミやチーズの切れ端をおじいちゃんに投げてもらって、喜んで食べていた。だが、ここでもラウラのチェックが厳しかった。「食べさせすぎないで!太るでしょ!!!」。おじいちゃん…日本人の前でラウラに叱られすぎ。
いやー、それにしてもよく食べたし、よく飲んだ…。いや、マジで美味しかった!新鮮なものの美味しさってスゴイ。チーズやサラミは、そのまま部屋に持って帰っていいよ、と言われたので、この後調理に使わせてもらった。
今回アグリツーリズモに宿泊したのは、キッチン付きの部屋を探していて探し当てただけであって、もともとアグリに泊まりたいと思っていたわけではなかったのだが、実に面白い体験であった。まあ、それでも覚えているのは、サラミやワインの美味しさだけであって、作り方とかは全然覚えていないんだけどね!いいんだよ。楽しかったならそれでいいんだよ。