3/12シラクーサ旅行記3 旅は道連れ人形劇

ベッローモ宮州立美術館を出て、少し歩くと、海岸沿いに出た。

シラクーサ

ちょっと待って…。何、この美しい海は。海の底が見えていますよ!

シラクーサ

まさに空の色より青い海。というか、私、この色大好きだよ。ヤバイ、シラクーサの海。もしかしたら、人生で今まで見た中で、一番好きな海の色かもしれない。なんか、美しくて切ない旋律の歌を歌いたくなるね!あまりにも美しすぎるものは、同時に切ないのである(適当に、名文っぽく言ってみたかっただけです)。

この海のほとりの、ちょっとした砂浜部分に、修学旅行生たちが下りていた。古代遺跡か残るシラクーサは、イタリア人の修学旅行生が多い。日本でも、修学旅行で奈良や京都に行くように、イタリアの子供たちは、イタリアの歴史の重要都市を修学旅行でまわるのだろう。

この修学旅行生たちには、まだまだシラクーサの海の、切ないまでの美しさが醸し出すわびさびがわからないらしく(まあそんなものがわかる中高生ってやだけど)、彼らは完全に町歩きに飽きているようであった。そして、この海に向かって、石投げをしていた。石が何回水面でバウンドできるかを競っているのである。これ、国を超えて、男の子はやりたがるんだなあ。私が小中学校の頃、よく男子が、川とか海でこういうことしてたなあ。

一人すごくうまい子がいて、彼が石を投げると、水面に、リズミカルで小気味のよい波紋が、いくつも広がるのである。波紋の広がるシラクーサの海も素敵。しばらく、彼らの石投げ競争を、ぼーっとながめていた。

この海沿いに、シラクーサの大きな観光地図があったので、見てみると、ちょっと近くに、「Bagno Ebraico」という観光地があった。「Bagno Ebraico」って…ヘブライ人のトイレ?ヘブライ人の風呂?何となくトイレに行きたい気分だったので、近くだしちょっと行ってみるかということになった。(当たり前ですが、トイレは、途中のバールで行きましたよ!念のため!)

「Bagno Ebraico」は、「ジューデッカ(=ユダヤ人居住区)」と呼ばれる界隈にある。ヘブライ人(イタリア語でEbreo、その形容詞がEbraico。ちなみにBagnoはトイレもしくは風呂だよ!イタリア旅行で大事な単語っ!)とは、ざっくりと言えばユダヤ人を指す言葉なので、「Bagno Ebraico」が、このユダヤ人居住区にあるのは、シラクーサに住んでいたユダヤ人たちの遺跡であることは間違いないだろう。

B&Bのオーナーさんが、「ジューデッカ界隈は、小さな路地が入り組んで、迷宮状でおもしろいですよ」と言っていたので、実は、ちょっと足を運んでもみたかったのだ。ジューデッカ地区を歩きながら、ユダヤ人のトイレを探すよ!

シラクーサ

こちらが、ジューデッカ地区の細い路地。確かに、シラクーサの中では、かなり狭い道が続いている。観光オフシーズンのためか、歩いている観光客はほとんどいない。こんな細い路地で、マフィアの取引なんかに出くわしてしまったらどうしよう、と、ちょっと怖気づいたが、マフィアが、しがない観光客に見つかるような場所で、重要な取引なぞするわけがないのだ。シラクーサの治安はというと、観光客も多ければ、観光客に構いたがる(あるいは構ってほしがる)地元民も多い町なので、シチリアの中でもかなり安全に感じた。

シラクーサ

そしてユダヤ人のトイレ発見。しーん。それがどうした。何がトイレで何が風呂?近くに遺跡っぽいものないじゃんよ。
まあ、何となく行ってみただけなので、別に落胆もしなかった我々だが、あまりにも意味不明な場所に看板があったので、帰国してから調べてみた。「Bagno Ebraico」は、実は地下に残る遺跡なので、外からは見えてなかったのだ。冬季は午前中のガイドツアーしかないらしい。

さて。これからどうしようかな。シラクーサの夜景も見たいけどまだ早い。もう夕刻だから、考古学地区の訪問は明日に回さなきゃいけない。たった2日のシラクーサ滞在は、実に忙しい。明日、ガシガシ動くためにも、今日はサッサとご飯を食べて、早くB&Bに戻って寝てしまうのも手である。

そんなことを考えながら、街中を歩いていると、ポツポツと雨が降ってきた。あー。雨か。ちょっと前まで青空が広がっていても、急に雨が降ってくるのがイタリアの天気である。地中海沿岸ってこんな天気なのだろうか。それでも、地中海沿岸は、雨の少ない乾燥した気候と言われるので、夏は本当に雨が降らないのだろう。夏のイタリアも見てみたいが、旅行代金が高く、観光客の数が冬の数倍多く…(この問答は、このブログで10回以上はしているので割愛)

バッグから、折り畳み傘を取り出そうかなあ…と思っていたその時、「人形劇を見ていかないかい?」と、長身の男性に英語で声をかけられた。えっ?と周りを見てみると、今、ちょうど我々は、人形劇場の近くにいたようだ。

実は、シチリア島では、「pupi」と呼ばれるちょっとリアルな人形が伝統工芸のひとつであり、その「pupi」を使った人形劇が、庶民の娯楽として親しまれてきた。今では、庶民の娯楽と言うよりは、伝統芸能として、観光客などをターゲットに上演されている。ダガ、我々は大人だし、「pupi」はちょっとリアルすぎてお世辞にも可愛くはないし、あまり興味はなかった。

そこで、「もうすぐ日没なので、海に夕陽を見に行きたいのでやめておきます」と言うと、「今日は天気は悪いし、夕陽は見えないよ。今日は人形劇を見て、夕陽は明日見るといいよ」と笑って言う男性。重ねて、男性は、「実は、僕はこの劇場のスタッフじゃなくて、ドイツ人ツーリストなんだよ。人形劇が見たいんだけど、観客が8人以上にならないと、公演はしないらしいんだ。それで、誰か一緒に見てくれる人がいないか勧誘しているんだよー」と言う。

…そんなこと言われると、同じ観光客としては、彼の気持ちがわかるので、何となく協力したくなるのである。でもなー。人形劇なー。興味はあんまり…などと思っていると、姉が「ねえ、見ていこうよ!確かに彼の言う通り、夕陽はこの天気じゃ見えないし。これも何かの縁だよ!」と言う。うん、確かに何かの縁ではあるね。ちょうど雨も降ってきたし、雨宿りにもよさそうだし、我々はこのドイツ人の勧誘を受けることにした。

中に入ると、勧誘した男性と、その奥さん、さらにこのドイツ人男性が我々より先に勧誘に成功していた、メキシコ人夫婦がいた。我々を入れて計6人!さあ!あと二人の観客を、ゲットすることはできるのか!

ここまで来ると、ちょっと人形劇も見てみたい。ドイツ人男性とともに、姉も、「私も誰か日本人観光客をつかまえられないか、外に出てくるよ」と言って、出て行った。さすが姉…。そして、しばらくすると、ドイツ人男性が、ドイツ人のカップルを連れて戻ってきた!おおッ!これで8人っ!ドイツ人男性の行動力に喝采である。何事も行動あるのみなのだな。これで公演が決まり、切符売り場が開いた。

最後に、若いイタリア人二人も入ってきて、観客は合計10人になった!明らかにインターナショナルな顔ぶれを見て、劇場スタッフさんが、「劇はイタリア語で行われますので、英語で書かれた大筋の内容をお配りします」と、パンフレットを配った。チラチラ読んでみたが、オリンピアという美女の波乱万丈の悲劇の人生が演じられるらしい。

シラクーサ

しかし…冷静に考えると、私、シラクーサで何してるんだろ…。2日しか滞在しないシラクーサで、シラクーサ滞在は時間が足りなくて忙しい!ばっかり言ってるのに、人形劇とか…。イヤ、こんな場面で冷静になったら負けである。

そして、開幕~!最初に舞台に登場したのは、海藻と魚。…魚っ?何だかおちょぼ口の魚が、ふらふらと舞台の上を彷徨っている。あと、クラゲ。は?何?何なの?…よくわからないが、急に笑いが込み上げてきた。隣の姉を見ると、既に姉も、周りに迷惑を書けないように、息を殺して爆笑している…。ヤバイ。笑いが止まらない。何だかわからないのだが、最初の意味不明な魚たちが、我々の笑いのどツボにはまってしまったのだ。このまま笑いが止まらなかったらヤバイ…!

シラクーサ

しかし、魚とクラゲが、画面から瞬間移動で消えると、シリアスな人間ドラマが始まり、笑いは何とか止まったのである。イタリア語のリスニング勉強になるかなーと思ったのだが、内容は何言ってるのかさっぱりわからなかった!が、人形の動きが秀逸で、なかなか楽しめる。

シラクーサ

話の内容は全然わからなかったが、これは、美しいオリンピアが、海の怪物に捧げられている?場面だと思う。

シラクーサ

オリンピアを襲いに来た怪物と、英雄っぽい人が戦っているよ!ぶつかり合う音が響いて、迫力満点っ!

シラクーサ

何かその後、急に場面が変わって、城門みたいなところで、バッサバッサと戦いが繰り広げられた。画面手前には、剣の戦いで負けて、倒れた兵士たちの山。これもまた、リズミカルで迫力があった。よくわからなかったのだが、このたくさんの倒れた兵士たちを前にして、オリンピアが、「人生はこんなものよ…」的なことを言って、終幕~。

…というわけで、全っ然、話が理解できなかったイタリア語学習者の私は、都合数十回目の、「ヤバイ。もっとイタ語がんばらなきゃ…」と自己反省したわけだが、話がわからなくても、迫力があって、じゅうぶん楽しめた。いやー。まさか、時間が足りないシラクーサ滞在中に人形劇を見ることになるとは思わなかったが、「袖振り合うも他生の縁」的なきっかけで見た人形劇は、心に残る体験となったよ!

人形劇にさそってくれたドイツ人観光客の男性にお礼を言って、劇場を出ると、雨が降っていた。私は、根拠のないポジティブ野郎なので、我々が劇を見ている間に雨は止むだろうと勝手に思っていたのだが、華麗なる思い込みであった。
雨の中、夜ご飯を食べに、姉が調べておいてくれた、安くて美味しいと有名な「Sicilia in Tavola」というお店に行った。取り放題の前菜が美味しいらしいのである。

お店はほぼ満員状態だったが、運良く空いているテーブルがあって、すぐに座ることができた。我々の後に、ドドドッとお客さんがやってきて、かなり待つ状態になっていたので、いいタイミングでお店に入ることができた。

シラクーサ

こちらがビュッフェ形式の前菜。庶民的な味付けで美味しかった。この前菜までは美味しかったのだが…

この後の海鮮スープ、海鮮風味の包みパスタが、我々の口には全然合わなかった。イタリアでは珍しいくらい口に合わなくて、食べることができなかった。我々は薄味家族なので、味付けが濃すぎるのだろうか。少しでも食べられるように、生野菜サラダをオーダーして、口直ししながら食べたのだが、やっぱり食べられなかった。もしかしたら、モディカからずっと、キッチンなしのホテルに宿泊しているので、胃が外食疲れしているのかもしれないが。

B&Bに戻ると、やはり、我々はかなり疲れていた。この日でちょうど10泊目で、今回の旅行のちょうど真ん中あたりになる。本当は、このあたりで少し休んだ方がよいのだろうが、何せ昔からの憧れの町シラクーサ。休む暇など無い(人形劇見る暇はあるくせに)。また明日も体力を絞り出して、しゃかりきに歩き回るのだ。