3/10モディカ旅行記1 不思議の町のチョコレート

一週間滞在したカターニアのアパートホテルを、今日は出発する日である。出発する時に、オーナー夫婦が見送りに出てきてくれた。「この後、シチリア旅行している間に、何か困ったことがあったら、ためらわずに私たちに連絡してきてね!」と、優しい言葉で見送ってくれた。

我々が、これから向かう町は、世界遺産のバロック建築で有名な、ノート渓谷の町である。カターニアからは2時間程度かかるので、日帰りにするかどうか迷ったのだが、宿泊観光することにした。

ノート渓谷の有名な町としては、ラグーザ、ノート、モディカ、シクリなどがある。この中で、ノートだけは、距離的にはそれほど離れていないのだけど、バスが遠回りだったり鉄道の便が少なかったりで、これらの町とセットで訪問するより、シラクーサとセットで訪問した方がよい位置にある。というわけで、ノートはシラクーサ滞在中に、シラクーサから行く予定である。

ノートを除けば、ノート渓谷の町で、観光地として一番有名な町はラグーザである。私も、写真などで見て、ラグーザには惚れた。なので、初めは、ラグーザに宿泊する予定だった。モディカとかシクリは、行きたければラグーザから行けばいいし、ラグーザが気に入って離れたくなければ、無理していかなくてもいいよね、くらいに思っていた。

しかしである。旅行の計画を立てている時に、CREA Traveller (クレア・トラベラー) 2013年 10月号 [雑誌]という雑誌をかなり参考にしたのだが、そこに、モディカの美しいホテルが掲載されていた。「貴族の友人気分」が味わえる、邸宅ホテルとか書いてあった。

クレアトラベラーは、結構ラグジュアリーな雑誌なので、素敵なホテルが多く掲載されているのだけど、どうせ我々(と書いてビンボーと読む)なんざ、お呼びじゃないホテルが多いので、「まー見るだけ見るだけ!見るだけならタダだから!」と眺めていたら…1泊80ユーロからとある。1泊80ユーロっ…?これなら、我々の予算の範囲内なんだけど!

そこで、インターネットで、ホテルの公式サイトを見てみると…うおっ…本当に3月は80ユーロくらいで泊まれるよ…(一番安い部屋は75ユーロくらいだった)!そして、部屋は美しいし、朝食はめっちゃ美味しいらしい…!「貴族の友人気分」を、こんなリーズナブルな値段で味わえる機会は、滅多にないんじゃないか…。おそらく、ラグーサほどは観光地として有名ではないモディカで、しかも冬季なので、こんな破格の値段なんだろう。

そして、姉と私は、あっさりと「貴族の友人気分」というキャッチコピーに屈した。そう。モディカに宿泊することにしたのである。我々の言い分はこうである。「ホラ、モディカの方がラグーザよりシラクーサにチョットだけ近いからさ、シラクーサにこの後移動するのが楽ジャン!それにさ、シクリに行く気になったらさ、シクリもラグーザよりモディカの方が近いジャン!モディカは交通が便利なんだよ!」。

…まー、これはタテマエであり、ホンネは貴族の友人気分を味わいたいだけである。誰に対してのタテマエなのかは、もはやワカラナイ。

というわけで、これから、貴族の友人気分なわけですよ。おほほ。カターニアからモディカまで、貴族だったらハイヤー移動なのだろうが、我々はあくまで「貴族の友人」で、しかも「気分」なので、長距離バスでGO!なのである。

カターニアからモディカへ行くバスは、カターニア駅が始発で、中心部に近いボルセッリーノ広場にも停まる。我々がカターニアで宿泊していたアパートホテルは、ボルセッリーノ広場に近いので、もちろん広場から乗車した。バス会社はASTだが、InterbusとかETNA社の切符を売っている窓口の、すぐ前の道路にASTの白いバスがやってくる。切符は運転手さんから購入できる。片道9ユーロである。

1週間滞在したカターニア、バイバイ!バスは、カターニア発で、南下するバスのほとんどがそうなのだが、いったんカターニア空港に立ち寄り、それから目的地を目指す。予定乗車時間は、2時間強。音楽を聴きながら、菜の花のような黄色い花が咲き乱れる、シチリアの春の大地をぼーっと眺める。

途中で、大きな工場地帯が見えた。シチリアの中でも、カターニアから南方のシラクーサにかけての地域だけが、工業化が進み、ちょっと裕福な地域なのだと、シチリアの歴史 (文庫クセジュ 985)という本に書いてあったなあ。

 

モディカの前には、ポッツァーロという、マルタ島への船が出る町に停まった。マルタ島も、カラヴァッジョのよさそうな作品があるので行ってみたいのだが、今回は旅程がキツキツなので見送った。ポッツァーロとモディカは、思っていたより近かった。マルタ島を訪問する人は、このノート渓谷の町々を併せて訪問する旅程を作ってもいいかもしれない。

それにしても、音楽最強である。音楽さえ聴いて入れば、苦手なバス旅が、あっという間にクリアできる。2時間強のモディカまでの移動も、それほど苦ではなかった。

モーディカ

モディカは、アルタ(高台)と、バッサ(下の町)に分かれている町で、バスは、バッサの北の端のバスターミナルに着く。このバスターミナルは、バッサの中心となる通り、コルソ・ウンベルトに面している。このコルソ・ウンベルト通り沿いのホテルに宿泊すれば、このバスターミナルから、スーツケースを持って移動するのは、それほど造作もないことであろう。

しかし!我々がモディカに宿泊した一番の目的は、「貴族の友人気分」なので、交通の便利さなどは二の次であった。貴族の友人ホテルは、モディカのアルタ、坂のずっとずっと上にあるのだ。さあ!スーツケースを転がして、上へ上へと上るよ!

ごろごろ。ごろごろ(←スーツケースを引く音)。ごろごろ。ごろごろごろ。…ふう…。アルタのドゥオーモにあたるサン・ジョルジョ教会まで、まずは上った。地図で見ると(地球の歩き方にはモディカの地図は載っていないので、適当にインターネットで探してプリントアウトしてきた地図)、ここから貴族の友人ホテルは近いのだが、よくよく見てみると、地図に載っている道は、階段になっているよ。あいやー。スーツケースを持ってこの階段を上らにゃならんのかね…?

しゃーない、階段を上るか、と、スーツケースを持ち上げようとした時、ドゥオーモ前でだべっていたおじいさん&おじさんが声をかけてきた。「君たち、どこのホテルに行こうとしているんだい?」。

おおっ!これが、「モディカの旅人に親切な地元な人たち」か!実は、モディカは、地球の歩き方にほとんど情報が載っていないため、インターネットの個人の旅行記などを参考に情報を集めたのだが、モディカに行った人の多くが、地元の人たちに親切にされた体験を書いていたのだ。そして、我々も、たった2日の滞在で、モディカ人の親切には、非常にお世話になるのである。

このおじさんが一緒に地図を見てくれて、「階段を上るよりも、ちょっと遠回りだけど、坂道を通って、階段を迂回した方がいいよ」と教えてくれる。おじさんが我々に説明している間に、おじいさんの方は、ささっと、そこにちょうどあったB&Bみたいな建物に入って(不法侵入…?)、モディカの観光マップを持ってきた。そして、その地図を指さしながら、「スーツケースがある時は、こういう道順で行くといいよ」と教えてくれた。ありがとうっ!

そこで、おじいさんの教えてくれた道に沿って、スーツケースを転がしながら歩いた。階段の道を行けば、かなりショートカットになるのだけど、スーツケースがある場合はやはり階段の道は厳しい。ちなみに、モディカは、階段が多く、地図上では普通に道として描かれているものが、階段だったりするので、スーツケースがある場合には、遠回りで行くしかない可能性があることを、覚悟しておいた方がよいだろう。

しかし、このモディカでの宿泊について、我々は「貴族の友人気分」に目がくらんで、バスターミナルからの距離とか、坂道を上らなければならない可能性とか、全然考えていなかったのである。えへ。しょっぱなから、こんな坂道を、スーツケースをひきずりながら上るという重労働をしている我々。全然貴族の友人じゃない。貴族の友人なら、こんな坂、ハイヤーで上って行くハズである。

ようやく、貴族の友人宅(違います。ホテルです)に到着~!いやー、がんばった。カロリー消費した。ま、この消費したカロリーを、後からモディカチョコで取り戻しすぎるわけだよ(モディカチョコの話はまたのちほど)。

貴族の友人宅は…貴族だった!!!

モーディカ

貴族!

モーディカ

貴族!おーほほほほ。私が、こんなホテルに泊まる日が来るとは!こんな美しい邸宅ホテルに、リーズナブルな値段で宿泊できるのは、やはり貴族の友人だからなのだ。それが貴族の友人気分ということである(もはや、何を書いているか自分でもわからない)。

上の二枚の写真は、このホテルの共同部分で、我々は、天井に絵が描いてある部屋を予約してある。上品な女性スタッフさんが、部屋まで案内してくれたのだが、女性は「ん?」と首を傾げた。ドアに「Don’t disturb(=掃除は結構です)」の札が掛かっているよ…?どうやら、まだ部屋のメイキングが済んでいなかったらしい。

我々が通常宿泊するような、個人経営のB&Bなどではよくあることなので、我々は別に気にもしないのだが、貴族の友人ホテルとしては、このような不手際が悔しかったようで、女性は無念そうだった。部屋のメイキングができるまで、荷物をフロントに預けて、モディカをぶらぶらすることにした。ちょうどお昼時だから、ランチを食べてから帰ってくればちょうどいいね!

モーディカ

モディカで、いろいろお店が集まっているのは、バッサの方である。ホテルから、下の方に降りていく途中に、こんな圧巻な風景が広がる。モディカは、バロック建築の町として世界遺産に登録されているが、バロックというより、すり鉢状の地形に、びっしりと家が立ち並んでいる、独時の風景が一番の見所だと思う。どことなく、洞窟住居の町マテーラに似ているが、なぜだかマテーラのような物悲しい雰囲気はなく、明るくてのんびりした空気が、モディカの町には流れている。

モディカ

車の通らない、階段の道も多いモディカなので、猫ちゃんもたくさんいる。

モーディカ

階段の色が保護色になって見えにくいが、この階段の途中にいた猫ちゃんは、後ろ足が一本なかった。道路に出て、車にでも轢かれてしまったのだろうか。それでも、町の人たちにごはんをもらって、たくましく生きているようだ。

バッサの Via Marchese Tedeschiという通りまで下りた。この時には、モディカって、思っていたより大きな町だなーと思ったのだが、後で、「やっぱり小さい町だな」と思ったり、「いや、やっぱり大きいよ」と、何度も思い直しをした。すり鉢状のこのモディカの町、私は全体としての町の感覚を、2日の滞在ではつかむことができなかった。モディカは、大きいような小さいような、不思議な町であった。

このVia Marchese Tedeschiで、トリップアドバイザーで評価が高かった「Caffe Adamo」というカフェに入り、カプチーノとパニーノを食べた。トリップアドバイザーで評価が高いだけあって、美味しかった。

店主のおじさんが、「モディカチョコレートをもう食べたかい?」と聞いたので、「まだです」と答えると、店頭で売っているモディカチョコレートを一枚、味見として、削ってカプチーノに入れてくれた。

モーディカ

お、美味しいっ…!

モディカチョコレートとは。モディカは、昔スペイン支配を受けていた時代があり、その時代に、スペイン人が製法を持ち込んだチョコレートで、何と製法は、南米のアステカ文明に由来するのだそうだ。そういえば、アステカ文明は、スペイン人によって侵略を受けたんだったなあ。

古代から伝わる製法なので、カカオと砂糖だけしか入っていない、原始的なレシピである。バターやミルクが入っていなので、現代の我々が食べているチョコレートのように、マイルドではない。モディカという町で一番有名なのは、このモディカチョコレートである。

で、このモディカチョコレートだが、普通のチョコレートとは風味が違うため、私が旅行前に調べたネット情報でも賛否両論であった。「やみつきになる美味しさ」と言う人もいれば、「美味しくない硬いチョコレート」と言う人もいた。後者のような、否定的な意見もそこそこ多かったので、実は、姉も私も、あまり期待していなかった。

だ、だけど!美味しいよ!このチョコレート!カプチーノに入れて飲んでいるだけで、「ヤバい!これは美味しい!」と、モディカチョコレートの威力に押される我々。

モディカ

チョコレート自体も試食させてくれた。普通のチョコレートと違って、割ると粉が出てくる。砂糖が、完全に混ざり切っていなので、ざらざらして粉っぽいのである。「粉っぽいチョコレートなんか美味しくなさそう」とお思いになるかもしれないが(私もそう思っていた)、ところがどっこい、美味しいんでありますよ~~~。

もうこのお店で、モディカチョコレートを買ってしまおうか、と思ったくらいなのだが、モディカには、もはや観光名所のひとつとも言える、大変に有名な老舗のモディカチョコレート屋さんがある。まずは、そちらに行ってみて、こっちのカフェのチョコの方が好みだったら、戻ってくればいいね、ということで、その老舗さんに行くことにした。いつって、今だよ、今!にわかにモディカチョコレートに興味が沸いてきたんだよ!

その、有名な老舗チョコレート屋さんの名前は、「bonajuto(ボナユート)」。お店の名前からしてイタリア語というより、スペイン語的な響きである(テキトウな知ったか)。バッサのドゥオーモのちょうどお向かいくらいにお店がある。

モディカ

こちらのお店。世界中で有名なお店らしく、ありとあらゆる国の観光客が入店していた。

モディカ

パニラやシナモンといったスタンダードな味のものから、オレンジやレモン、ペペロンチーノ(唐辛子)や海藻(イタリア語だとalghe)といった、珍しい味までそろっている。味見を自由にできるので、じっくり選ぶことができる。

最初に味見した時は、こんなものかなー、さっきのカフェで食べたチョコレートの方が美味しいかなーと思ったのだが、味見しているうちに何だかだんだん美味しくなってきた!そして、味見のし過ぎで、何が何だかわからなくなってきた!

…ので、もう、どれがどの味だかわからなくなってしまったので、お店の方に、「一番モディカチョコレートの特徴が味わえるフレバーはどれですか?」と聞いてみると、バニラかシナモンだと言う。バニラとシナモンを食べ比べると、バニラの方が美味しかったので、バニラの板チョコ(100g。2.4ユーロ)を、自分たち用やお土産用にいくつか買った。また、ペペロンチーノ味は大入り箱(20個入り。8.5ユーロ)があったので、職場用などに購入した。

モディカ

こちらはバニラ味のパッケージである。

チョコレート以外にも、このお店はカンノーロが美味しいという噂があるので(美味しいものの噂には耳ざとい私)、お昼ご飯を食べた後で、しかもチョコの試食のし過ぎでお腹いっぱいだったのだが、あまりにも興味がありすぎたので、1つ購入した。カンノーロの生地の中に、その場でリコッタチーズを詰めてくれた。

モディカ

こちら。二人で食べるならと、わざわざ二つに割ってくれた。お店の中で食べたのだが…

…オイシスギル…!衝撃のオイシスギル!…何これ!(カンノーロです)お腹いっぱいなのが悔やまれるよ!もっとたくさん食べたいのに、これ以上は食べられないっ…!というか、お腹いっぱいの時って、あんまり食べ物って美味しく感じられないものだと思うのだが、この満腹のコンディションで、この美味しさだよ!天はカンノーロの上にカンノーロを作ったね(意味不明)!!!

ちなみに、中に詰めるクリームは、リコッタ以外にもチョコレートを詰めることもできた。もーね、これオススメ。つい、チョコレートを試食しすぎて、カンノーロまで食べられないかもしれないが、カンノーロを食べることを想定して、チョコレートの試食には臨んだ方がよい。シチリアで食べたカンノーロの中で、ここがナンバーワンだったかも!というレヴェルのカンノーロなので、ぜひ、ご賞味を!

あと、寒い季節であれば、ホットチョコレートを飲んでいるお客さんも多かったので、これも美味しいのかもしれない。いやー、お土産用のモディカチョコだけでなく、「bonajuto」ではいろいろ食さなきゃいけないね。

モディカ

お土産用のチョコレートは、ひとつひとつ職人技の猛スピードで、綺麗にラッピングしてくれる。

ラッピングも綺麗だし、日本ではなかなか食べられない味なので、モディカに行く人は、シチリア土産はこのモディカチョコで決まりだね!しかも、普通のチョコレートと違って、溶けないチョコレートなんだよ。もう、マジで決まりだね。

自分たち用に購入したモディカチョコを、帰国してから食べたのだが、やっぱり美味しかった。天はチョコレートの上にモディカチョコを作ったね(好きだねソレ)。我々は、自分たち用のモディカチョコを食し終わってから…禁断の…もともと人様のお土産用に購入したものにまで手を………イヤ、これ以上は言わないよ。トモダチを失くしたくない人は、自分たち用のモディカチョコを、ちょっと多めに購入して帰ることをオススメするよっ!