3/21アグリジェント旅行記5 おはよう!ギリシャ神殿

アグリジェントはたったの1泊である。ということは、アグリジェントで迎える朝は、この1日だけという、非常に貴重な朝である。

宿泊したB&Bの、朝食を取るテラスから、神殿の谷を見下ろすことが出来る。

アグリジェント

神殿の向こう側には、海が見える。アグリジェントは、シチリアの南側に位置し、地中海がすぐそこである。ということは、あの海の向こう側はアフリカである。古代ギリシア時代には、この海を挟んで、カルタゴとにらみ合っていたのだ。

アグリジェント

遠くにかすんで見える、コンコルディア神殿。アグリジェントのギリシャ神殿が特別なのは、やはり神殿が、この広大な谷に鎮座ましましている…いや、座ってはいないな、堂々と立ち誇っている、このロケーションも含めた風景である。
今日は、州立考古学博物館へ行く予定である。博物館も、市街地ではなく、神殿の谷の方にある。

そう考えると、昨日神殿の谷の遺跡を歩き回り、今日博物館に行くのなら、市街地ではなく、神殿の谷にあるホテルに宿泊した方がよかったかなあ。そうしておけば、昨日、夜のライトアップを見た後、市街地に戻るバスがなかなか来なくて、焦ってしまったが、そんな思いもせずに済んだのだ。

しかし、ホテルやレストランなどは、当然のことながら市街地の方が多くある。何で市街地の方に宿泊することにしたんだっけ?と考えてみると、谷の方に、あまり評判のよい、手ごろな値段のホテルが見つからなかったんだったなあ。
ちなみに、神殿の谷には、神殿のパノラマを拝める、素晴らしいロケーションにある、有名なヴィッラ・アテナというホテルがあるのだが、何せTAKAIんですよ!TAKAI!

まあいいさ!とにもかくにも、今日も元気よく谷の方へ降りていくゼ!普段の我々であれば、博物館までは下りなので、歩いて行くところなのだが、何せ、お昼すぎにはもうパレルモに戻るからね!時間節約のために、バスで行くぜ!

ホテルのオーナーいわく、神殿の谷と市街地をつなぐ、TUNという会社のバスの路線のうち、1、2、2/(数字の後ろにスラッシュが入っている不思議な路線がある)、3、3/が市街地から神殿の谷へ行き、博物館に行きたい場合は、運転手さんに伝えて、博物館で降ろしてもらうように、とのことだった。

しかし、昨日の段階で、バスターミナルにいたバススタッフのような方からは、1、2、3/しか神殿の谷には行かない、と言われていた。どちらが合っているのかはわからないが、とりあえず、今日もバスターミナルで聞いてみるしかない。

…と思っていたら、我々を観光客だと見るや、向こうの方からおじさんが近づいてきて、「どこに行きたいの?」と聞いてきた。イタリアで、向こうの方からあまりに積極的に近づいてくる人には、やや警戒しなければならないのだが、このおじさんは、バス会社のスタッフさんと一緒にいたので、バス会社の人かと思い、「博物館です」と答えてみた。

目の前に、2番だか3番だか(忘れた)のTUNバスが待機していたので、「あれに乗って、博物館で降ろしてもらえばいいんですか?」と聞いてみると、「あのバスは、神殿の谷には行くけど、博物館では降りられないよ。次のバスが博物館前で降りられるバスだから、来たら僕が運転手さんに伝えるよ」とのお答えである。

神殿の谷には行くけど博物館では降りられない???博物館へ行くには、神殿の谷に行く途中で、運転手さんに申告して降ろしてもらうんじゃないの?それとも、神殿の谷に行くのに、そんなにルートがたくさんあるものなの?

このおじさんは、問わず語りに、「僕は、実は退職したばっかりのバス運転手なんだよー。だから僕に任せておくといいよ」と言う。バス会社のスタッフさんも、後ろで、うん、うん、と頷いている。「君たち、帰りの切符は持ってる?博物館の近くでは購入できないから、買っておいた方がいいよ」と、バスターミナルから見えているバールを指さした。

アグリジェント

道路を渡ったところにある、このバール。確かに、帰りのバス切符のことは考えてなかったよ!ありがとう、おじさん!

バス切符を買ってバスターミナルまで戻り、待機していたTUNバスは、おじさんが「博物館では停まらない」と言うので、一本見送った。次に1番のTUNバスが来ると、おじさんが、「これに乗るんだよ」教えてくれて、運転手さんに「この日本人たちを博物館で降ろしてくれ」と、言付けしてくれた。確かに、この運転手さんとは、知り合いって感じだった。

アグリジェント

これは、前日の旅行記でも使った使い回し写真だが、これがTUNバスの1番線だよ。

おじさんは、我々の面倒を見た後、バスターミナルを見回して、次の観光客を見つけ、世話を焼いていた。完全に私的な観光インフォメーションである。仕事を引退した後、こんな生きがいがあれば、おじさんもやりがいがあるだろうし、観光客は大助かりだし、みんなハッピーでスバラシイ。

アグリジェント

こちらは、我々が乗ったバスではないのだが、バスターミナルに、葛飾北斎の「富嶽三十六景」を拝借したと思われる絵柄のバスがいたので、思わずパチリ。浮世絵の表現って、西洋画とは全く違って、何となく現代の漫画絵のルーツなんじゃないか、と思ってしまう。現実感のなさという、不思議な魅力である。

さて、バスはぶっぶーと、市街地を降りて行った。5分くらい走ったかな、くらいのところで、昨日行った神殿の谷にたどり着く前に、バスが停車して、運転手さんが、我々に向かって「ムゼオ(イタリア語で博物館)」と教えてくれた。我々が降車するのに続いて、年配の女性も降りた。

バスを降りて、進行方向右手にある建物が、何となく博物館っぽかったので、歩いていくと、一緒に降りた女性が「あれが博物館かしら?」と、イタリア語で尋ねてきた。「おそらく、そうだと思います」と答えた。女性は、ヴェネツィアからやってきた一人旅なのだそうだ。ヴェネツィアのような観光都市から、観光に出かけるなんて、何だか不思議な気がしてしまう。

18世紀にイタリアを旅したゲーテは、だいたい同時代のバロック作品などにはあまり目もくれず、数百年前のルネサンス都市フィレンツェにも強い興味は示さず、古代ローマや古代ギリシャ遺跡に強く感動している。

我々も、イタリア旅行の際、20世紀以降の近現代になってから、再建されていたり、新しく作られたりしたものは、あまり見たいと思わない。旅をする人間にとって、自分が生きている時間や場所より、遠いものに惹かれるのは当然なのだろう。

何が言いたいかというと、ヴェネツィアに住んでいる人が旅に出るなんて聞くと、つい不思議に思ってしまうが、ヴェネツィアのような観光都市に住んでいても、自分から遠いものを求めて、旅に出るのはごくごく当たり前のことなのだ。

さて、博物館に入る前に!博物館は、神殿の谷より、少し高い位置にあるので、博物館の前庭から、神殿の谷の、素晴らしいパノラマを拝むことが出来るのだ。

アグリジェント

一番間近に見えるのが、ヘラクレス神殿の、力強く立ち並ぶ柱たち。

アグリジェント

コンコルディア神殿も、自然の中に、堂々と佇んでいる姿を拝むことが出来る。この博物館前の庭は、コンコルディア神殿の遠景を見るスポットとしては、最高かもしれない。

アグリジェント

ヘラ神殿も、遠くの方ではあるが、凛とした姿が見えている。ヘラ神殿は、こうやって遠くから見ると、高台にあるのがはっきりわかるため、まさしく聖所という姿に見える。

今日も天気がよさそうだ。今回のシチリア旅行は、あまり天候に恵まれなかったが、アグリジェントで天気が良かったのは、本当にラッキーだった。朝から、ギリシャ神殿の美しい姿を拝めて、本当に幸せだ!

さて。では、いよいよ博物館の中に入って行くよ!この博物館では、ごろろんぽ(テラモーネのことだよ)の本物に対面できるのだ!