3/14アンヴェルサ旅行記 谷に張り付く秘境の村

スルモーナから、さらにアブルッツォ州の内陸、山間部に向けて、バスは進む。イタリアは半島なので、海の国だと思われがちだが、半島の真ん中には山脈が走り、内陸部はまったくもって山の世界である。よく考えると、日本に似ているなあ。

何もない山道をバスは淡々と走り、町が見えてきたところで停車した。運転手さんが「ここがアンヴェルサだよ」と、我々を降ろしてくれた。

アンヴェルサ

アンヴェルサのバス停。雪をかぶったアペニン山脈の景色が気持ちいい!

バスはほぼ時間通りにアンヴェルサに到着し、11時半を過ぎたくらいである。お昼ご飯を食べて、13時25分のバスでスカンノに行きたいので、アンヴェルサはランチ込みで2時間の滞在である。我々の旅にしては、たいぶタイトなスケジュールだ。

私はご飯を食べるのが遅いので、先にランチを済ませてから、町歩きをしようということになり、調べておいた「Le Gole」というレストランに先に行くことにした。

アンヴェルサ

アンヴェルサは、サジッタリオ谷という谷の片方の斜面に、へばり付くように家が立ち並んでいる。レストラン「Le Gole」の近くは、その谷の見晴らしが非常に素晴らしい。谷底には、サジッタリオ川という川が流れているらしいが、さすがに川は見えない。

山小屋みたいな建物の「Le gole」に行ってみると、し・閉まっている~…。まだ12時になってないからだ、12時過ぎたら開くだろうと思っていると、中から男性が出てきた。

そこで、「何時に開きますか?」と聞いてみると「13時」とのお答え。じゅ、じゅうさんじっ…?私たち、13時25分のバスでスカンノに向けてアンヴェルサを発ちたいわけだから、無理じゃないか?

わざわざスカンノの観光時間を減らしてまでアンヴェルサで降車したのにー!と地団太を踏みたくなったが、アンヴェルサはもう一つ、有名なお店があるので、そちらが12時台に開くことに賭けよう。賭けるしかないだろう。これがパスカルの言う「賭けの必要性」だな(ぜんっぜん違います)。

アンヴェルサ

レストランの周囲には猫ちゃんが多かった。「残念だったニャー」。

アンヴェルサ

しかし、この「Le Gole」周辺のパノラマは素晴らしい…。アーモンドの花と思しきピンクの花が咲き誇っている。

アンヴェルサ

左の方には、アンヴェルサの町のシンボルである、城塞跡が見えている。アンヴェルサは、いまいち地図が頭に入りにくい不思議な形をしていたが、あの城塞の塔みたいな建物が、町の一番高い部分にある。

アンヴェルサ

「Le Gole」からアンヴェルサの町に戻る途中に、アンヴェルサの素晴らしいパノラマが目の前に現れた。谷に沿って、斜めに張り付いている様子がよくわかる。まさに秘境である。アブルッツォ州は、本当に知られざるイタリアだなあ。

実は、このアンヴェルサの町が、斜めに張り付いているパノラマは、どこから見えるのかが事前にわからず、最後にパノラマポイントを探そうと思っていたのだが、「Le gole」まで来たことで、パノラマポイントを簡単に見つけてしまった。レストランは閉まっていたけど、ここまで来た甲斐があったよ!

町の方に戻ると、すぐにもうひとつのレストラン「La Fiaccola」が見つかった。

アンヴェルサ

こちらは12時半には開くと書いてあったので、こちらでランチすることにした。12時半まで30分強だけど、アンヴェルサの町を歩こう!

アンヴェルサ

レストラン「La Fiaccola」のすぐ近くには、サン・マルチェッロ教会(Chiesa di San Marcello)がある。11世紀に作られた、ロマネスク式の古い教会だ。ロマネスク教会だが、扉は、ちょっとだけ先端がとんがっているゴシック様式である。古いフレスコ画があり、状態はあまりよくないが、聖母と聖人二人が描かれている。

アンヴェルサ

ロマネスクらしい、深い意味があるような無いような彫像で飾られている。残念ながら中には入れなかったが、雰囲気のよい教会であった。

そのまま進むと、あっという間に町の中心の広場に出る。

アンヴェルサ

アンヴェルサでは一番開けている感じの場所で、この広場にはバールもある。広場の奥に見えているのが、城塞のタワーである。この広場の右側には、アンヴェルサで一番大きな教会、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会(Chiesa di Santa Maria delle Grazie)がある。

アンヴェルサ

こちらの教会も、素敵な扉を持っている。こちらの方は、ルネサンス様式の扉だと言うが、どことなくまだたどたどしい感じで、後期ゴシックくらいの彫刻類に見える。だが、古代ギリシャ風の柱がルネサンスを感じさせる。

こちらの教会も中に入れなくて残念だったが、今の我々にはあまり時間がないので、逆に閉まっていてよかったかもしれない。中に入ったら、あーでもないこーでもないと、我々は長居するからなあ。

この広場の階段を上っていくと、城塞に近づくことができるので、上ってみる。

アンヴェルサ

城塞まで上る途中の小道。アンヴェルサは黒猫ちゃんが多いなあ。ファミリーかもしれない。

アンヴェルサ

少し高くまで上ると、先ほどのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会のバラ窓と、鐘楼が見える。そして、その向こうには雪山。お天気はよいし、気持ちのよい風景だ。アブルッツォ州がどんどん好きになる。

アンヴェルサ

城塞のタワーの、すぐ真下まで行くことができた。満開のアーモンドの花が、タワーに文字通り花を添えている。

アンヴェルサ

上ってきた道とは違う道をゆっくりと降りてみる。本当に静かで、誰にも会わないが、周囲の家は廃墟という感じはしない。何よりも、いきいきとした町の活力が感じられる。イタリアの小さな村は、どうしてこんなに元気がいいんだろうなあ。

この道を降りると、偶然にも、すぐ目の前がレストラン「La Fiaccola」だった。ぐるっと回って元の道に戻ってきたのだ。

まだ12時半少し前だったが、ドアを開けてみると、既に先客がいて、我々もすぐテーブルに通してもらえた。シニア夫婦が二人でのんびり営業している感じである。しかし、先客がいるとは驚いた。先客さんはグルメ客という感じだった。グルメハンターはこんな小さな村にも足を運ぶのだなあ。

アンヴェルサ

こちらはアンヴェルサ特産の前菜盛り合わせ。カジュアルな格好をした奥さんが、イタリア語でゆっくりと一つ一つ説明してくれた。アーモンドやハーブ、グリルしたチーズもあり、美味っ!山の幸っ!

アンヴェルサ

パスタは、きのこのバスタにたっぷりチーズがかかったもの。こちらも素材の味がしっかり出ていて、なかなか日本では食べられないなという感じだった。うまく言えないが、「地元の味」って感じ。

奥の皿は何とオレンジサラダである。デザートではなく、サラダの味で、これも大ヒットだった。イタリアでオレンジは、サラダとして食べる方法があることを覚えたのであった。

アンヴェルサ

メインは仔牛のステーキ。こちらもいかにも地元の味。ただ肉を焼いただけと言う感じなのに、何でこんなにおいしいのか、グルメ通ではない私にはわからないのだが、おそらく地元の食材のため、新鮮なのではないかと思う。新鮮な素材は、味付けをしない方がむしろ味わえるのかもしれない。

私たちが食事をしている傍らで、おもしろいことに、オーナー夫婦と、あと地元の人が一人やってきて、我々に出した料理の余りのようなものでランチを始めた。チーズやハムの切り落とした部分や、ステーキの骨の部分などである。日本の都市部のレストランでは考えられないことかもしれないが、私はこういう大らかさが好きだ。

料理が美味しかったので、デザートまで食べたかったのだが、スカンノ行きのバスの時間が迫ってきていたので、勘定を済ませ、トイレを借りて、お店を出た。いやー、アンヴェルサで降りてヨカッタ!町も素敵だったし、美味しいものも食べられた!

アンヴェルサ

バスを降りた場所まで戻る我々。このバス停からは、谷の眺めがよいので、バス待ちの時間も観光になる。

アンヴェルサ

谷の下の方へと続いていく家々が見える。アンヴェルサは、中心部だけ見るなら1時間もいらないくらいだが、実は、国立公園になっている谷の下までハイキングで歩いていくこともできる。自然の中、野生動物にも会えるらしい。私はアウトドア苦手だが、姉は大好きなので、名残惜しそうに谷底を見ていた。

また、カストロヴァルヴァという離れ集落も存在するそうだ。アンヴェルサ自体が小さい町なのに、離れ集落があるなんて、面白い。

バス待ちをしていると、珍しくアンヴェルサの住民のおじさんが歩いてきて、我々を見て人懐こく、「写真を撮ってあげるよ!」と話しかけてきた。

満面嬉しそうなおじさんの申し出を断れず、カメラを出して撮影してもらったが、撮れた写真は姉のお眼鏡に適わなかった。姉いわく、イタリア人は「アンタ(=私のこと)よりカメラが下手な人が多い」そうだ。イタリア人に流れる芸術の血潮は、カメラ撮影とはなかなかマッチしないらしい。

バスがほぼ時間通りやってきて、運転手さんが窓を開けて「スカンノ?」と叫んだ。「スィー」と叫び返すと、手で、上の方のバス停まで来るように言われた。

そうか、今更ながらまた間違えたけど、イタリアの車は右側通行であった。確かに、このバス停からだとスカンノ方向に行くバスには乗れないね。アンヴェルサのバス停は、非常に見晴らしのよい場所にあるが、スカンノ方面に行きたい場合は、うねった坂を上ったすぐそこにある地味なバス停からの乗車になるので、注意っ!

3/14スカンノ旅行記 幾何学の美とクマのパンへ続く

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